1999年9月7日
番組上の不手際があるとすぐ久米宏のせいにされるテレビ朝日「ニュースステーション」で9月7日、「北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)のテレビ事情」という非常に興味深い番組が放送されました。
テレビによると、日本のニュースでよく目にする「国家主義的マスゲーム」などの映像は、北朝鮮が対外宣伝目的で配信されているものだといいます。そこで対外配信用ではない、日常生活を送る北朝鮮の人たちが普段はどのようなテレビ番組を見ているのか、という疑問に応えるのがこの番組コーナーの趣旨でした。
番組では、食糧危機を傍目に兵器開発に余念がないとされる北朝鮮でも、テレビ番組にはニュースもあり、ドラマもあり、バラエティやアニメーションもありとプログラム的には豊富であると紹介していました。ただ、いずれにしても番組の造りが日本の30年くらい前のテレビ番組、という前近代的な雰囲気を漂わせているように感じました。
いくつかの番組を紹介した中で、最も印象に残った、というより「思わず笑ってしまった」ものが、1996年のアトランタオリンピックで金メダルを受賞した女子柔道選手(ケイ・スンヒ)の活躍をドラマ化した番組でした。タイトルは失念しました。
が、ここは北朝鮮。日本の劇画「YAWARA!」のような可愛い女の子が出てくる柔道物語を連想してはいけません。じつに過去の出来事への憎悪とリベンジとカタカナ読みするようなレベルではない復讐が随所に込められているのです。
ハイライトの決勝のシーン、北朝鮮の選手と日本の田○亮○(ドラマでは田中洋子という名前がついている)が取り組んでいます。○村○子が優勢に立ち、北朝鮮の選手は寝技をかけられてピンチに陥っています。そこで選手が思い浮かべたものは…
それを思い浮かべた途端、胸の奥から湧き出る過去の憎悪と復讐で力を取り戻し、体落しで大勝利を収める…。
このドラマの脚本を書いた作者にとっては、まさに日本は「鬼畜日帝」そのものなのでしょう。オリンピックで試合することはイコール過去の歴史への復讐だ、で、その復讐の相手こそが日本だといわんばかりの内容です。これはいくらなんでもやり過ぎです。
逆に、このようなドラマが作られているということは、未だに日本と北朝鮮の関係がよくないという表われかもしれません。このドラマを日本人が見たら、思わず笑ってしまうかもしれませんが、ジャンルの違いこそあれ、似たようなことは日本もしているわけで、雑誌に「北朝鮮が日本を破滅させる日」などとセンセーショナルに報道するのも結局は「北朝鮮はとんでもない国」という感情を植え付けていることと同じなわけです。
筆者註: とんでもないことをしているのも確かですが、必要なのは、歪曲でも捏造でもなく、ありのままの事実や問題点を正確に突きとめ、いかに解決していくかを考えることではないでしょうか。
9月7日−2人を射殺し静岡の寸叉峡温泉で立て篭もった「金嬉老事件」の元被疑者が仮釈放されたが、日本国内に身元保証人はなく韓国へ移住…のニュースが流れた日に、この特集を放送することの意味とはいったい何なのか、再度考えてみる必要があると思います。