1999年5月5日
書店で本を漁(あさ)っているうちに、学習参考書のコーナーに漂着してしまいました。大学受験以来まったく無縁なコーナーだと素通りしても良かったのですが、「今の中学生やら高校生はどんな参考書で勉強しているのだろうか…」と興味を持つところもあり、しばらく書棚を眺めることにしました。
…と何人かの高校生が真剣に一冊の本を立ち読みしているのを見かけました。書名を見ると、「大学ランキング'99」とありました。まだあったんですね、こういう類いの本。私も高校生にまじって読んでしまいました。
しかし最近のランキング本はちょっと趣向が違っていて、「校地の敷地面積」や「図書館蔵書の多さ」、「出身者の一部上場企業取締役一覧」などでランク付けするように作られていて、読みものとしての面白さは確かにあると思いました。とにかく偏差値で輪切りにしていた以前のランキング本よりはより多角的なデータがあるのは読んでいて理解できたのですが、「なんか違うなぁ」と思ったりもします。
ふと考えたのは、「こんな評価の仕方でいいのかな」ということです。ある本では校地の敷地面積が広いところには「A」を、そうでないところは「C」と評価していました。けれども、面積が広ければ「いい大学」なのかなぁ? 逆に講義やゼミのたびに広い敷地を右往左往することを考えたら、面倒臭がりの私は思わず発狂してしまいますね。
もう一つは、図書館の蔵書数を競っても、これらの蔵書が「すぐに検索できて、すぐに取り出せる」ような環境でなければ、どんなに本が多くても宝の持ち腐れなのでは? ということです。検索に協力してくれる図書館司書が何人いるのか、オンラインデータベースのサーチャーがいるかどうかも「使える図書館」には欠かせない存在ですが、このような情報はどこにもないんですね。
そして「出身者の一部上場企業取締役一覧」ですね。これは「過去の栄光」で、未来の学生にとってはあまり意味を持ちません。似たようなものに「大企業就職先リスト」もありますが、これも意味がありません。就職難の時代、かなり気になる項目ですが、これを読んで「コネが期待できるかも…」と幻想を抱いてしまいそうです。もっとも、一番知りたい「その企業でどんな仕事をしているか」はこの本からはうかがいい知ることはできません。
どうもこの系統の本は「数値化できそうなデータ」を集めて、その数値が高いほど「ランクの高い大学」としているように思います。評価データの角度を広めただけで、結局、以前の「偏差値別ランク」とさして変わりはないことが分かりました。要は大学の一側面を見ているに過ぎないわけです。
でも、このランクに動かされてしまうんですね。受験生が? いや、大学が、です。たとえばこんな話があって、「評価を上げるために学内のトイレを全て『おしり洗浄装置付』にした」、「あらゆるテレビ局やら番組制作会社に『ロケ地にいかがですか?』とファクシミリを送る」など例はいろいろあります。「ロケ地になれば、広告費を出すことなく宣伝できる」ということで、どこの大学も「ロケ地誘致」に躍起になっています。しまいには「テレビ、CM、新聞掲載リスト」などという表を大学広報誌に載せてしまう過熱ぶりですが、いずれにしても本末転倒なんじゃないの? と思ったりします。もっとも、トイレが『おしり洗浄装置付』になれば、それはそれで嬉しいですよ。でもロケ地になったからって、質の高い学生が入ってくるかどうかは首どころか上半身を傾げてしまいます。
これも少子化の影響でしょうか、と言ってしまえば答えは簡単ですが、それ以外にもありそうですね。「大学って何をするところなのだろう」、「何で大学に行くんだろう」、このふたつの「意味」がどこかで抜け落ちているような気がします。